腱鞘炎(けんしょうえん)とは?
指や手首の使いすぎによって、ある日突然手が動かしづらくなった、痛みが出てきた──。それは「腱鞘炎(けんしょうえん)」かもしれません。腱鞘炎は、家事や育児、パソコン作業など、手をよく使う方に多くみられるトラブルで、悪化すると日常生活に大きな支障をきたすこともあります。ここでは腱鞘炎の基礎知識や原因、症状、注意すべき重篤なケースについて詳しく解説いたします。
■ 概要
腱鞘炎とは、筋肉と骨をつなぐ「腱(けん)」が、その通り道である「腱鞘(けんしょう)」と擦れて炎症を起こす状態を指します。腱鞘は腱を包むトンネル状の組織で、本来はスムーズな動きを助ける構造ですが、使いすぎなどにより腱との摩擦が増えると、腫れ・痛み・引っかかりといった症状が現れます。
特に多いのが以下の2タイプです:
- ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎):親指側の手首に起こる腱鞘炎。
- ばね指(弾発指):指の付け根に起こり、曲げ伸ばしの際に「引っかかり」や「カクン」という感覚がある。
どちらも日常生活で頻繁に使う部位で起こるため、注意が必要です。
■ 原因
腱鞘炎の発症には、以下のような要因が関係しています:
- 反復動作の繰り返し
パソコン作業、スマートフォン操作、楽器の演奏、調理・掃除など、手や指を酷使する生活習慣。 - ホルモンの変化
出産前後や更年期の女性に多く見られます。ホルモンバランスの変化により腱鞘がむくみやすくなり、炎症を起こしやすくなります。 - 加齢による腱・腱鞘の硬化
年齢とともに腱や腱鞘の柔軟性が低下し、炎症が生じやすくなります。 - 糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患
代謝や炎症のコントロールが難しい方では、腱鞘炎が慢性化・重症化しやすい傾向があります。
一度発症すると日常的な動作の中でさらに悪化しやすく、早期の対処が重要です。
■ 症状
腱鞘炎の症状は、手の使い方や発症部位によって異なりますが、以下が主な特徴です:
▶ 共通の症状:
- 手首や指の痛み・腫れ
- 特定の動き(親指を広げる・指を曲げる)で強い痛み
- 動かしたときの引っかかり感やこわばり
▶ ドケルバン病(親指側の手首):
- 親指を動かすと手首がズキッと痛む
- ペットボトルのフタを開ける、赤ちゃんを抱っこする動作で悪化
▶ ばね指(指の付け根):
- 指の曲げ伸ばしで「カクン」と引っかかる感覚
- 朝起きたときに指がこわばって動きづらい
- 重症化すると、指が曲がったまま戻らないことも
初期は動かすときだけの違和感ですが、進行すると安静時の痛みや夜間の不快感に発展します。
■ 重篤な症状
腱鞘炎は早期治療で改善することが多い一方、以下のような症状がある場合は注意が必要です:
- 強い痛みで手を動かせない/握力が極端に低下
- 指や手首が動かなくなった(固定されたような状態)
- 神経の圧迫によるしびれや感覚低下(母指球の萎縮など)
- 数か月以上続く慢性的な腫れ・熱感
これらは、腱の断裂や神経障害、慢性滑膜炎などを合併している可能性があり、放置すると手術が必要になるケースもあります。早めの診察・検査が大切です。
■ まとめ
腱鞘炎は、「よくある手の使いすぎ」と軽く見られがちですが、早期に適切な治療を行わないと慢性化し、仕事や家事に大きな支障をきたすことがあります。特に育児中の女性や手作業が多い職業の方は要注意です。
当院では、腱鞘炎の段階に応じた保存療法(安静・注射・装具療法)やリハビリ指導を行っております。また、改善が見込めない重症例については、信頼できる専門医と連携した手術対応も可能です。指や手首の違和感に気づいたら、悪化する前にぜひご相談ください。