腱鞘炎とは

腱鞘炎(けんしょうえん)は、腱(けん)を包んでいる筒状の組織「腱鞘(けんしょう)」に炎症が起きることで、痛み・腫れ・動かしにくさが生じる疾患です。

腱は筋肉と骨をつなぐ繊維状の組織で、腱鞘はその腱がスムーズに動くためのトンネル状のさやの役割を担っています。手や指を繰り返し使うことで腱と腱鞘の間に摩擦が生じ、炎症が起こります。

腱鞘炎は特定の一つの疾患名ではなく、腱と腱鞘の炎症を伴う疾患の総称です。代表的なものに「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」「ばね指(弾発指)」などがあり、それぞれ発生部位や症状に特徴があります。


腱鞘炎の種類

腱鞘炎は発生する部位と症状によっていくつかの種類に分類されます。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

手首の親指側に起こる腱鞘炎で、親指を動かしたり手首をひねる動作で痛みが生じます。スマートフォンの操作・抱っこ・調理など親指を使う動作が多い方に多く発症します。産後の女性や30〜50代の女性に多くみられます。

フィンケルシュタインテストという診断テストがあり、親指を内側に曲げて手首を小指側に倒したときに手首の親指側に強い痛みが走れば陽性となります。

ばね指(弾発指)

指の付け根付近にある腱鞘が狭くなり、腱が引っかかって指がスムーズに曲げ伸ばしできなくなる状態です。朝起きたときに指がこわばって動かしにくい・曲げると途中でひっかかる・無理に伸ばすとバチンと弾けるような感覚が特徴です。中高年の女性・糖尿病の方・手を使う職業の方に多くみられます。

手首の腱鞘炎(手関節周囲の腱鞘炎)

手首周辺の腱鞘に炎症が生じるもの。パソコン作業・スポーツ(テニス・ゴルフ・野球など)・楽器演奏などが誘因になることがあります。

アキレス腱周囲炎

足首の後ろにあるアキレス腱周辺の腱鞘に炎症が起こる状態。ランニングや長時間の歩行が誘因になりやすく、スポーツ選手に多くみられます。


腱鞘炎の原因

手や指・足首などを繰り返し使うことによる腱と腱鞘への過負荷が主な原因です。

主な原因

  • 手・指の使いすぎ:スマートフォンの長時間操作・パソコン入力・楽器演奏・調理・手作業の多い仕事
  • スポーツによる反復動作:テニス・ゴルフ・野球・バドミントン・弓道など手首や腕を繰り返し使う競技
  • 出産・育児:抱っこ・授乳・おむつ替えなど手首や親指に繰り返し負担がかかる動作。産後の女性に腱鞘炎が多い理由のひとつです
  • 急激な運動量の増加:普段使っていない筋腱を急に使いすぎることで炎症が生じます
  • ホルモンバランスの変化:妊娠中・産後・更年期の女性は腱鞘が浮腫みやすく腱鞘炎を発症しやすくなります
  • 加齢による腱・腱鞘の変性:組織の柔軟性が低下し炎症が生じやすくなります
  • 全身疾患との関連:関節リウマチ・糖尿病・甲状腺疾患などはばね指や腱鞘炎の発症リスクを高めます

腱鞘炎になりやすい人

  • スマートフォン・パソコンを長時間使用する方
  • 産後の女性(抱っこ・授乳による手首への負担)
  • 手を使う職業の方(美容師・調理師・介護職・デスクワーカーなど)
  • スポーツを日常的にしている方
  • 糖尿病・関節リウマチ・甲状腺疾患をお持ちの方

腱鞘炎の症状

発症部位によって症状の現れ方は異なりますが、共通する特徴があります。

よくみられる症状

  • 手首・指・足首などの痛みや腫れ
  • 動かしたときに痛みが強くなる
  • 患部を押すと痛む(圧痛)
  • 朝起きたときに強いこわばりや動かしにくさがある
  • 継続して使い続けると症状が悪化する
  • 安静にすると症状が和らぐ

ばね指に特有の症状

  • 指を曲げ伸ばしするときに引っかかり感がある
  • 曲げた指が自力で伸ばせなくなる(ロッキング)
  • 無理に伸ばすとバチンと弾けるような感覚がある
  • 朝起きたときに最も症状が強い

ドケルバン病に特有の症状

  • 手首の親指側(橈骨茎状突起部)に痛みと腫れ
  • 親指を動かす・ものをつかむ・瓶のふたを開けるなどの動作で痛みが強くなる
  • 手首をひねる動作(雑巾を絞るなど)で強い痛みが出る

注意すべき症状

以下の症状は腱鞘炎以外の疾患(骨折・関節リウマチ・感染性腱鞘炎など)が隠れている可能性があります。早めに医療機関を受診してください。

  • 関節が赤く熱を持って腫れている(感染性腱鞘炎の疑い)
  • 発熱を伴う手や指の痛み・腫れ
  • 複数の関節に同時に痛みや腫れが広がる(関節リウマチの疑い)
  • 外傷後から急に痛みが強くなった(骨折の疑い)

腱鞘炎の検査

問診・身体診察を中心に行い、必要に応じて画像検査を追加します。

主な検査

  • 問診:いつから・どのような動作で痛むか・職業・スポーツ歴・既往歴などを確認
  • 身体診察:圧痛の場所・腫れの有無・関節の可動域・引っかかり感の確認。ド・ケルバン病ではフィンケルシュタインテストを実施
  • X線検査:骨折・骨の変形・関節の状態を確認し、骨や関節疾患との鑑別を行います
  • 血液検査:関節リウマチ・感染・糖尿病・甲状腺疾患など全身疾患の除外
  • MRI・超音波検査:腱・腱鞘の炎症の程度・腱の断裂の有無を評価(必要時は専門機関へ紹介)

MRI検査について

東陽町リハビリ整形外科クリニックにはMRI設備はありません。

必要な場合は、近隣の医療機関へ紹介し、適切な検査が受けられるよう体制を整えています。


腱鞘炎の治療

多くの腱鞘炎は保存療法(手術以外の治療)で改善が期待できます。症状の重さ・期間・原因に応じて治療方針を選択します。

保存療法(手術以外の治療)

安静・患部の保護

炎症の原因となっている動作を制限することが回復の基本です。サポーターや装具で患部を固定し、患部への負担を減らします。「痛いけれど使える」状態での無理な使用は炎症を慢性化させます。

薬物療法

痛みや炎症を抑える薬(NSAIDs・鎮痛薬)や湿布を使用します。症状や全身状態に応じて医療機関で判断されます。

ステロイド注射(腱鞘内注射)

炎症が強い場合や保存療法で改善が乏しい場合に、腱鞘内にステロイド薬を注射する治療法です。炎症を直接抑えるため高い効果が期待できます。当院でも適応を判断のうえ実施しています。ただし繰り返しの注射は腱の断裂リスクがあるため、回数に注意が必要です。

物理療法(当院で実施)

  • 電気治療
  • 温熱療法

炎症の緩和・血流改善・痛みの軽減を目的とした補助的な治療です。急性期の強い炎症時には温熱は避け、医師の判断のもとで行います。

生活指導

発症原因となっている動作・姿勢の改善が再発予防にもつながります。スマートフォンや仕事の使い方・スポーツのフォーム改善など、個人の生活スタイルに合わせた指導を行います。

リハビリについて

当院には理学療法士は在籍しておらず、運動療法は行っていません。

物理療法を中心に、痛みや症状の軽減をサポートします。

手術が必要な場合

保存療法を十分に行っても改善しない場合や、ばね指でロッキング(指が伸びなくなる)が強い場合は、腱鞘を切開して腱の通り道を広げる手術が検討されます。局所麻酔で行われる比較的小さな手術です。

当院では手術は行っていません。

必要時は高次医療機関へ紹介し、適切な治療につながるようサポートします。


腱鞘炎の予防とセルフケア

腱鞘炎は再発しやすい疾患です。日常生活の工夫で症状の予防・悪化防止が期待できます。

予防のポイント

  • 同じ動作を長時間続けない(30〜60分に一度は休憩を入れる)
  • スマートフォン操作は両手を使う・持ち方を工夫する
  • パソコン操作時はキーボード・マウスの高さ・角度を調整し、手首に負担がかからないようにする
  • スポーツ前後にウォーミングアップ・クールダウンを丁寧に行う
  • 体が冷えると症状が悪化しやすいため、手首や指を冷やさないよう意識する
  • 産後は抱っこの姿勢を工夫し、手首だけに頼らず体全体で支えるよう意識する

自宅でできるセルフケア

  • 急性期(痛みが強い時期):患部を安静にし、アイシングで炎症を抑える(1回15〜20分、1日2〜3回)
  • 慢性期・回復期:温めて血流を促す(温熱パッド・お風呂でのマッサージなど)
  • 痛みが強い場合はサポーターや固定具で患部を保護する
  • 軽いストレッチ(痛みが強い急性期は避ける)で腱の柔軟性を維持する
  • 症状が再燃したら無理せず早めに受診する

スマートフォン・パソコン操作での注意点

現代の腱鞘炎増加の大きな要因がスマートフォンとパソコンの長時間使用です。以下の点を意識するだけで予防効果が期待できます。

  • スマートフォンは片手操作を避け、両手・スタンドを活用する
  • フリック操作よりも音声入力を積極的に活用する
  • パソコン作業中は手首をデスクに置きっぱなしにせず、適度に動かす
  • 1時間ごとに手を握ったり開いたりするストレッチを行う

受診のタイミング

「少し痛いだけ」と放置すると炎症が慢性化し、治療に時間がかかるようになります。早めの受診が回復への近道です。

受診を検討すべき症状

  • 手首・指・足首の痛みが2週間以上続いている
  • 朝起きたときに指がこわばって動かしにくい
  • 指を曲げ伸ばしするときに引っかかりや弾けるような感覚がある
  • 親指・手首の痛みで日常生活(家事・仕事・育児)に支障がある
  • スポーツや仕事を休まざるを得ないほど痛みが強い

関節が赤く熱を持って腫れている・発熱を伴う場合は感染性腱鞘炎の可能性があり、速やかな受診が必要です。

東陽町周辺で手首・指・足首の痛みにお悩みの方も、気軽にご相談ください。


当院でできること

診察・X線検査・物理療法・腱鞘内注射を中心に対応し、必要時は専門医療機関へ紹介します。

当院の対応内容

  • 診察(身体診察・誘発テストを含む)
  • X線検査
  • 血液検査
  • 物理療法(電気治療・温熱療法)
  • 症状に応じた薬物療法の提案(内服・湿布)
  • 腱鞘内注射(適応を判断のうえ実施)
  • MRI検査・手術が必要な場合の紹介体制

東陽町リハビリ整形外科クリニックでは、地域の方が安心して受診できる環境を整えています。


まとめ

腱鞘炎は、腱を包む腱鞘に炎症が生じることで痛み・腫れ・動かしにくさが起こる疾患です。スマートフォンや育児・仕事・スポーツなど現代の生活習慣と密接に関連しており、幅広い年代に発症します。代表的なものに「ド・ケルバン病」「ばね指」があり、それぞれ発症部位と症状に特徴があります。多くは安静・薬物療法・物理療法・腱鞘内注射などの保存療法で改善しますが、症状が長引く場合や悪化する場合は早めの整形外科受診が大切です。当院では診察・X線検査・物理療法・腱鞘内注射を中心に対応し、MRI検査や手術が必要な場合は適切な医療機関へ紹介しています。


FAQ

Q1. 腱鞘炎は自然に治りますか?

A. 軽症であれば安静にすることで数週間で改善することがあります。ただし原因となる動作を続けていると慢性化しやすく、「安静にすると楽・動かすと痛い」という状態が長く続くことがあります。2週間以上症状が続く場合は整形外科での診察をお勧めします。

Q2. 腱鞘炎に湿布は効きますか?

A. 市販の湿布(NSAIDs含有)は炎症・痛みの軽減に一定の効果があります。ただし根本的な治療にはならないため、症状が続く場合は医療機関での診察を受けることが重要です。

Q3. ばね指とドケルバン病の違いは何ですか?

A. ばね指は指の付け根付近の腱鞘の炎症で、指の曲げ伸ばし時の引っかかり・弾ける感覚が特徴です。ド・ケルバン病は手首の親指側の腱鞘の炎症で、親指を動かすと手首の親指側が強く痛む点が特徴です。どちらも腱鞘炎の一種ですが、発症部位と症状が異なります。

Q4. 産後に腱鞘炎になりやすいのはなぜですか?

A. 産後は抱っこ・授乳・おむつ替えなど手首や親指に繰り返し負荷がかかる動作が増えることに加え、ホルモンバランスの変化(エストロゲンの急減)によって腱鞘が浮腫みやすくなるためです。産後の腱鞘炎はド・ケルバン病として現れることが多く、授乳中でも使用できる薬や治療法があります。授乳中であることを受診時にお伝えください。

Q5. 腱鞘内注射は何回まで受けられますか?

A. 腱鞘内注射(ステロイド注射)は高い効果が期待できますが、同一部位への繰り返し注射は腱の変性・断裂リスクがあります。一般的には同一部位への注射は3回程度を目安とし、改善が乏しい場合は手術を検討します。注射の適応・回数は医師が判断しますので、受診時にご相談ください。

Q6. 腱鞘炎とリウマチの違いは何ですか?

A. 関節リウマチは免疫の異常により複数の関節に炎症が起こる全身疾患で、朝のこわばり(1時間以上続くことが多い)・左右対称の関節の腫れ・発熱・全身倦怠感を伴うことがあります。腱鞘炎は使いすぎによる局所的な炎症で、原則として特定の部位に症状が限られます。複数の関節に同時に症状が出る場合は血液検査(リウマチ因子・CRP)での鑑別が重要です。

Q7. スポーツはいつから再開できますか?

A. 痛みが完全に引いていない状態での無理な復帰は炎症の再燃・悪化につながります。目安として、患部に痛みがなく・通常の動作が支障なくできる状態になってから段階的に再開します。スポーツ再開の時期は医師に相談のうえ決定することをお勧めします。

Q8. 手術をしないと治らない場合がありますか?

A. 保存療法(安静・薬物療法・腱鞘内注射など)を十分行っても改善しない場合や、ばね指でロッキングが強い場合は手術が検討されます。手術は局所麻酔で行われる比較的小さなものが多く、高い改善率が期待できます。手術が必要と判断した場合は専門医療機関へ紹介します。

Q9. 子どもも腱鞘炎になりますか?

A. 成人に比べると少ないですが、スポーツを熱心に行っている子どもにも腱鞘炎は起こります。また、先天的な腱鞘の異常による「先天性ばね指」が乳幼児にみられることもあります。子どもの手指の痛みや動かしにくさが続く場合は、整形外科での診察をお勧めします。

Q10. 腱鞘炎を放置するとどうなりますか?

A. 炎症が慢性化すると、安静にしていても痛みが続く状態になります。ばね指ではロッキング(指が動かなくなる)が起きやすくなり、最終的に手術が必要になるケースも増えます。また腱が慢性的な炎症にさらされると腱の変性・断裂リスクが高まります。「少し痛いだけ」という状態のうちに受診することが、早期回復につながります。

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